2020/12/16 16:59

雛人形の値段の差、今回は「仕立て・着せ付け編」です。

  

素材編と同様に、仕立てや着せ付けの違いも一言で表せるものではありません。また、各職人や工房においてもそれぞれ得手不得手や好みがあります。同じような仕立て方・着せ付けをしていても、同じだけ値段が違うという訳ではない、という事をご理解ください。

1.全体の仕立て


「本仕立て」や「本着付け」といった表記をよく見ます。大概の場合、これは衣装を制作し、それを胴体に着せるという作り方です。当たり前のように聞こえますが、多くの雛人形の衣装は上半身部分と下半身の裾部分は別々に仕立てられています。前者の方が手間も技術も必要となりますので、金額的には高くなります。しかし、最高級品は全てそうかと言われれば、必ずしも当てはまる訳ではありません。実際、最高級品の代名詞とも言える「京雛」の職人さんの中でも上下分割式で仕立てる方もいます。雛人形はあくまでも飾り物です。飾った時に美しく見せることが一番重要です。各職人や工房が、各々の考える美しい雛人形を作るために適した仕立て方をしているという事です。


2.裾の仕立て


ぱっと見で分かりやすい箇所です。雛人形を上や後ろから見るとその差は歴然です。正面からはあまり見えませんので、量産品では手を抜きやすい部分でもあります。ここでは2つの雛人形を例にご説明させて頂きます。


1枚目の写真は簡易的な1枚仕立て、2枚目の写真は「衿・衽・前身頃・後身頃」が分けて仕立てられています。出来上がりの美しさは一目瞭然です。また裾のサイズを段々と大きく仕立てています。この方が五衣のグラデーションが美しく表現できます。各パーツごとに異なる大きさの型紙を使用しますので非常に手間がかかります。さらに細かいとこを見ると、2枚目の写真の裾の角は「額縁仕上げ」になっています。これも手間はかかりますが、仕上がりの美しさに一役買っています。当然手間が掛かれば値段は上がります。極端な例ではありますが見比べればこれだけの違いがあります。

3.袖の仕立て

こちらもわかりやすい部位かと思います。まずは裏地の有無です。最近は少なくなりましたが、裏地がなく1枚の生地を半分に折り曲げた五衣がよく見られました。それから「おめり」の均等性もポイントです。「おめり」とはお着物で言う「ふき」に当たるもので、裏地が少しだけ見えるよう、僅かに表地に折り返して縫製する仕立てです。おめりの出具合が揃っていると美しい袖口になります。そして袖の形です。きれいで自然な袖の形を作り出すには、生地を裁断する寸法はもちろん、厚みや硬さなどを考慮する必要があります。美しい袖の形はそういった緻密な計算のもとに成り立っています。


4.袴の仕立て

見えにくい部分ではありますが、よくよく見ると違いがあります。袴の仕立てというよりは、着せ付けの差になってくるのですが、膝の形の作り方です。ご存じの通り一般的なお雛様は座り姿です。女雛は正座、男雛は拝み足(あぐらとは少し違い、足の裏を合わせる座り方)で座っています。特に注目して頂きたいのが女雛の膝周辺です。正座の際に膝を折った形が自然に作られているか、その時に寄る袴のしわを表現してあるか。ぱっと見で目が行くところではありませんが、ここが美しいときれいな座り姿に見えます。また男雛を裏返した時に足に襪【しとうず】(足袋のようなもの)を履いているかも注目してみて下さい。



まとめ

基本的に、値段の高い雛人形はそれ相応の技術と手間を掛けて仕立てられています。ただし最終的に重要なのは、それらの技術を駆使した上で美しく仕上がっているかどうかです。本物の十二単を忠実に再現するために手間を掛けて仕立てれば、当然作業費により値段は上がっていきます。しかし着せ付けが美しくなければ、せっかくの仕立ても台無しになってしまいます。仕立てと着せ付けのバランスが重要となります。

以上が仕立て・着せ付けの違いです。
次回は屏風や御道具類の違いについて書こうと思います。