2020/12/10 16:26

実際に雛人形を探し始めると、それぞれの値段の差に驚かれるかと思います。

近年主流となっている「親王飾り(女雛と男雛一対のお飾り)」で比べてみても、数万円程度で購入できる物も有れば、百万円を超える物までその金額は様々です。そんな雛人形の値段の差についてお話ししたいと思います。

まず初めに申し上げたいのが、高額な雛人形=良い雛人形とは限らないという事です。そもそも私たち人形屋の言う「良い雛人形」とお客様にとっての「良い雛人形」は意味合いが違います。私、「人形の大峰 店主」にとっての「良い雛人形」とは確かな素材や技術に裏打ちされた、伝統的に美しいお雛様です。一方、お客様にとっての「良い雛人形」とは持ち主の方に一生愛され、長く大切にして頂けるお雛様です。何十万もするお雛様をお選びいただいても、2~3年飾って終わりになってしまっては、その方にとって「良い雛人形」とは言えないと思います。

ですので、これからお話しする内容は雛人形の良し悪しではなく、あくまでも「価格の違い」についてであることをご理解ください。

雛人形の金額を決める要素は複合的で多岐に渡ります。その中でも今回は素材編としてまとめました。

1.衣装の生地

雛人形を構成する素材の中で最も多く使用するのが衣装を仕立てるための「生地」です。雛人形の衣装は通常「金襴」と呼ばれる織物で作られます。この金襴の素材の素材は大きく分けて「正絹」「交織(正絹と化繊の両方を用いて織った物)」「化繊(ポリエステル、レーヨンなど)」に分けられます。当然「正絹」が高価で「化繊」が安価になります。それぞれの見分け方は「光沢」「肌触り」「燃焼反応」などですが、当然店頭に陳列されている雛人形を素手でべたべた触ったり、燃やしたりはできませんので、お店の人に聞いてみましょう。ちなみに「正絹」の中にも繊維の均等性や製糸方法によってランクがありその値段は様々ですが、その説明は長くなりますのでここでは割愛させて頂きます。

そしてそれぞれの素材の金襴が、その雛人形にどれだけ使用されているかがポイントです。雛人形(ここでは主に女雛)の衣装の構成はざっくり分けて「唐衣」「表着」「五衣」「単」「袴」「裳裾」となります。同じ「正絹」と謳った雛人形でもこれら全てに「正絹」を使用した雛人形も有れば、一番上に着せる「唐衣」だけに使用している雛人形も有ります。これも販売員に問い合わせれば大抵答えてくれます。

これまでで生地の違いは何となくご理解いただけたと思いますが、最初にも申し上げた通り、どっちが良くてどっちが悪い、というものではありませんし、生地の違いだけでいくら違う、というものでもありません。衣装では「仕立て」も重要なポイントになってきます。詳しくはまた次回お話しさせて頂きますが、例えば『全てのパーツに「正絹」を使用して簡素な仕立てのお雛様』、逆に『「化繊」のみを使用しているがものすごく細かい仕立てで作られたお雛様』というのはあまり存在しません。生地に拘れば仕立にも拘るのが自然です。その積み重ねで最終的なお値段が変わると言う訳です。


2.お顔(頭)・手足の素材

お顔の種類は大別すると3種類です。「桐塑頭(練頭)」「石膏頭(本頭)」「プラスチックや樹脂製の頭」の3種ですが、最近は「プラスチック製」はほとんど見かけません。
「桐塑頭」とはしょうふ糊で固めた桐の粉をお顔の形に成型し、その上に牡蠣や蛤の殻から作る「胡粉」という顔料を膠と共に幾重にも塗り重ねて制作される天然素材の頭です。目、鼻、口などのお顔の各部位を職人が手彫りで仕上げるので、非常に細かな表現ができ、立体感があるのが特徴です。制作に時間と技術が必要になりますので、その分値段としては高くなります。
「石膏頭」はその名の通り石膏を型に流し込んで制作する頭です。お顔の各部位は型によって表現されるので、「桐塑頭」に比べると職人の腕に左右されず、正確に同じお顔が制作できます。現在ほとんどのお雛様がこの「石膏頭」で、その生産性の高さから海外で作らせている物も有ります。

手足は「木製」と「樹脂製」の2種類に分けられます。
「木製」の手足は桐を職人が手彫りで彫り上げ、「桐塑頭」と同様に「胡粉」を塗り上げて制作します。指の一本一本が細かに表現され、爪先まで美しいです。
「樹脂製」は型から作られます。ほとんど手作業は必要なく、安価で大量に生産できます。

以上がお顔と手足の違いです。お顔の違いで最大数万円、手足で数千円程度変わってきますがが、これも大抵の場合、生地や仕立てに拘っていれば自ずと「桐塑頭」や「石膏頭(国産)」、「木製の手足」を使用します。


3.胴体の素材

お値段に与える影響はあまり大きくありませんが、胴体にも「桐胴」と「藁胴」の2種類があります。
「桐胴」は胴体の微妙なラインや傾きの調整などの加工が難しいですが、型崩れの心配がなく、防虫性に優れています。
「藁胴」は虫が付きやすい為、防虫処理が必要となりますが、加工がしやすくきれいな形が作りやすいです。
金額という観点からすれば大差はありません。


長くなりましたが、以上が素材による金額の違いの簡単な説明です。
次回は「衣装の仕立て」についてお話ししたいと思います。